愛と憎しみは芸術の宝!ピカソのカラーは憧れの女性への賛美

ピカソ絵画の真髄は、エロス以外に考えられません。渦巻く性欲は遺憾なくキャンバスに反映され、わいせつを超えたわいせつな画家ピカソの制作意欲と女性への執着心は常に比例しており、ピカソが女性を自分の虜にできずに、孤独の巣の中で生きていたら、「青の時代」は継続していったことでしょう。まずピカソの転換期には、必ず女性の存在が影響しています。まず革命的絵画「アヴィニョンの娘たち」の色彩は、ピカソを支えた当時の恋人、フェルナンド・オリビエに対する賛美と言っても過言ではありません。

そもそもピカソが愛する女性の全てが絶世の美女であり、戦時中に口説き落としたフランソワーズ・ジローもピカソが即興的に絵画を作成するように、テンポよく同棲生活に引き込まれ、二人の子どもを授かっています。映画「ミステリアス・ピカソ」での瞬時に、絵を自在変形させる凄技は、驚異的であり、色気があるからこそ、何でも自由に書ける、もしくは絵画技術を上回る発想力があるからこそ、女性を自分に向けさせる、いい意味での脅威を持ち合わせていると言えます。

最後の妻、ジャクリーヌ・ロックは、ピカソの死後、拳銃自殺を図っており、ピカソがいかにドラッグのような覚醒作用を女性たちに与えていたかがうかがい知れます。ピカソの絵画の中には常に女性が生きており、ピカソもまたその画面の中で神が人類を支配するかのごとく、霊的存在として、女性の精神をのっとるような状態を作り上げていました。そしてその最大の被害者であるジャクリーヌの肖像画は、最も純粋で美しく、誇張せずに描かれる事が多かったため、ピカソの心に心酔しきってしまった感があります。

映画「白い恐怖」におけるサルバドール・ダリとアルフレッド・ヒッチコックの作り出した抽象的な恐怖映像のごとくピカソは、愛する女性または、関係を終えた女性までをも束縛するという脅威を持っていましたが、しかし悪い言い方をすれば、全てが芸術の道具に過ぎなかったのです。それは女性だけに限らず、友人カサヘマスも父親も、画商もピカソは芸術のために彼らを描き続け、自己の顕示欲の高まりが頂点に達した91歳で、この世を去り、5人目の愛人であったマリー・テレーズも首吊り自殺しています。享年67歳でした。

ピカソが晩年に放った「この世で最も重要なモノは愛である」という言葉が象徴するように、9人の愛人と、4人の子どもたちを溺愛するかのごとく、自己をささげた事は間違いありませんが、執拗な愛が何か別の化け物に同化してしまい、フランソワーズ・ジローに至っては、憎しみでピカソとの関係を絶つという、ピカソにとっては、プライドが引き裂かれる出来事も起こっています。しかしフランソワーズは、心がそれだけ強かったわけで、その後画家として成功し、唯一ピカソの呪縛から逃れた愛人でした。

結局はピカソのカラーというものは、憧れの女性への賛美という見方もできますし、幸せであれば、穏やかな絵を描き、苦しいときには、暗い色が素直に使われると言うデリケートな精神を持っていました。愛と憎しみは芸術の宝であったとも言えます。